親の借金を相続放棄するときに考えられるデメリット
親族が他界した際の借金は財産とみなされて相続されます。「プラスの財産」より「マイナスの財産」が多い場合は、相続放棄をすることで負債を回避できます。
しかし、相続放棄には多くの問題点があります。もし行うのであれば、じゅうぶんに考慮をしてから行う必要があります。
相続放棄のデメリット
- 相続放棄をしても負債は次の相続人に引き継がれる
- 相続人全員が相続放棄をしても、支払い義務は完全に消えない
- 一度相続放棄をすると、二度と撤回ができない
- 財産処分をしたとみなされると、相続放棄はできない
相続放棄をしても負債は次の相続人に引き継がれる
相続放棄のいちばんの注意点は、放棄をしても「借金」は別の親族の誰かに引き継がれてしまう、ということです。
たとえば、亡くなった父親が残した借金を子供が譲り受けるとします。それを拒否すると、母親に相続されます。母親がすでに他界していたり、母親もまた放棄をすると、兄弟、親戚へとどんどんと引き継がれていきます。
相続には「相続順位」があります。「第一順位」「第二順位」「第三順位」と、優先順位が定められているのです。
相続順位
親戚と話をせずに、家族だけで勝手に相続放棄をすると、借金の相続は親戚の方たちに及んでいきますので、非常に注意が必要です。
この相続放棄における「負債移行」は、たとえば死んだ夫に内縁の妻がいたような場合にも適応されてていきます。
全員が相続放棄をしても、支払い義務は消えることはない
親族すべてが同意しているので借金の相続を放棄する、といった場合どうなるか? を考えてみましょう。
相続するものが誰もいなくなった場合、債権者は「相続財産管理人」選任の申し立てをします。その「相続財産管理人」が借金の管理を行うことになります。
つまり、相続人全員が相続放棄をしても、借金そのものがなくなることはありません。
仮に資産があるとすれば、管理人が財産を打って債権者に借金を返済するという手段がとられます。
多くの場合、「相続財産管理人」は債権者が指定した弁護士が司ることが多いですが、管理人が選任されるまでは、相続債務は家族や親族一同に残りつづけることも注意点です。
相続放棄の手続きをしたからといって、すぐに支払いの義務から解放されるわけではないのです。催促状が来たり、取り立てが起こることもあります。
それらのことも皆でよく話し合っておく必要があります。
一度相続放棄をすると、二度と撤回ができない
相続放棄は一度してしまうと、それを二度と撤回することができません。
これで困るのは、後々財産があったとわかった場合です。
借金の相続放棄をしていると、プラスの財産も放棄しているとみなされるため、それらを受け取る権利がありません。
あとで遺品整理をしていたら、骨董品が見つかって、鑑定してもらったら意外な価値が出た、という場合など一度放棄してしまっていると、財産を受け取ることができませんので、注意しましょう。
財産処分をしたとみなされると、相続放棄はできない
相続放棄ができない場合があります。
被相続人である親の財産を知らずに使ってしまっていた場合は、相続放棄ができません。
財産処分をしたとみなされる行為
- 被相続人のお金で入院費用の支払い
- 被相続人の賃貸アパートやマンションの解約
- 被相続人の所有物を売却したり、処分してしまった
被相続人の財産に手を付けてしまっていた場合、「被相続人のお金を使った」ということになりますので、これは相続を認めてしまった、ということになるのです。
たとえば、このケースでいちばんよく見られるのは、車の問題です。
被相続人が生前に乗ってい車を、勝手に子供が処分してしまうと、車という財産を使った、とみなされます。こういう場合は、一度車を所有者を被相続人ではない第三者に移して処分するか、そのままにしておくなどの処置が必要になってきます。
このように、親族一同の同意を得ている、どんな財産が後々現れてもその一切を放棄する、という覚悟や認識があっても、相続放棄を行うのには厳しいポイントがあります。注意する必要があります。
一部だけを相続したい場合は限定承認をする
相続人が限定承認を検討するときには、次の3つのケースが考えられます。
限定承認を検討するケース
- 相続される財産がいったいどれくらいあるのかはっきりしない
- どうしても残したい財産がある
- 相続放棄によって起る諸問題が悩みで、ほかの相続方法を検討したい
限定承認のデメリットは数多い
プラスの財産額の分だけを相続することができるのが、「限定承認」の特徴です。
基本的に、相続には3つの種類があるといってよいです。
3つの相続の種類
- 単純承認 財産も借金も相続する
- 相続放棄 一切の財産を相続しない
- 限定承認 限定された額のみを相続する
わかりやすくするために、1つの例を出します。
たとえば、死んだ親名義の残された1,000万円の家が財産として残っていたとします。片方で、生前の借金が2,000万円残っていたとします。この場合、1,000万円だけを「限定承認」によって相続したい、ということになると思います。
もっとも手っ取り早い解決法は、1,000万円をどこからか用立てをして、1,000万円の借金を返済してしまうことで、家は財産として残す、という方法です。
しかし、用立てができず、1,000万円分のプラス財産のみを「限定承認」したとします。
この場合、承認されなかった1,000万円の負債はどうなるか? というと、次の優先順位の相続人に引き継がれていきます。
限定承認は相続放棄以上に現実的な解決策ではない
限定承認は年間で1,000件程度しか行われていません。そもそも限定承認は条件もとても厳しいことが特徴です。
限定承認の条件
- 3か月以内に申請しなければならない (想像放棄と同様)
- 相続人全員の同意が必要 (相続放棄と同様)
- 税金がかかる
- 財産は競売にかけられる
- 財産に手をつけていた場合は承認されない (相続放棄と同様)
都合のいい額だけを限定的に承認しようとする「限定承認」は、負債を被ってしまう親族たちにとってみれば決して好ましいものではありません。よい解決策とはいえないでしょう。
返済できない負債であれば、相続放棄をせずに借金は国の借金制度を利用する
財産の額が曖昧、急死の場合は相続放棄をしないほうがよい
相続放棄を行わないほうがよいケース
- 財産の額が曖昧である場合
- 遺言などなく急死した場合
相続放棄を行う場合は、相続の義務があることを知った日から3か月以内に申請する必要があります。まずはこの点をよく注意しておきましょう!
たとえば、行方不明になった親が亡くなっていて、そのことを知らされたとき、すでに死後3か月であった場合などは、「相続放棄のための申述期間伸長の申請」の手続きが必要になります。
法的手続きに時間がかかる場合は、その3か月以内に申し出ると、期間を引き延ばすことができます。
財産の額が曖昧である場合や、急死して遺言などが見当たらない場合は、相続放棄はやめておいたほうが無難です。
後で、どうなるか? がとにかくわからないからです。
とにかく、死んだ親に借金があって、それを返済することが困難だ、という場合は、以下の方法で借金は解決しましょう。
「債務控除」をして、「債務整理」をする解決法を、以下で具体的にお話しします。
債務控除をする
「相続債務」(マイナスの財産)の中には控除の対象となるものがあります。控除となるものがないかを、見直しましょう。
債務控除が認められる対象
- 金融機関からの借入金
- 個人からの借入金
- 公租公課 (所得税、住民税、固定資産税)
- 未払いの医療費
- 事業の未払金
- 賃貸不動産の借入金
- 葬儀、納骨の費用
債務控除が認められない対象
- 団体信用生命保険の住宅ローン
- 相続税がかからない財産の税金
- 保証人となっている債務
- 死亡した後に発生する弁護士、税理士などのお金
- (1) 債務
差し引くことができる債務は、被相続人が死亡したときにあった債務で確実と認められるものです。
なお、被相続人に課される税金で被相続人の死亡後相続人などが納付又は徴収されることになった所得税などの税金については被相続人が死亡したときに確定していないもの(相続時精算課税適用者の死亡によりその相続人が承継した相続税の納税に係る義務を除きます。)であっても、債務として遺産総額から差し引くことができます。
ただし、相続人などの責任に基づいて納付したり、徴収されることになった延滞税や加算税などは遺産総額から差し引くことはできません。 - (2) 葬式費用
葬式費用は債務ではありませんが、相続税を計算するときは遺産総額から差し引くことができます。
「遺産総額から差し引くことのできる債務」 国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4126.htm
※ 控除にできるのは、貸金業者に対する借入金や、クレジットカードの未払金、税金、葬儀費用などです。すべての借金が控除の対象として認められるわけではありませんので注意してください。
「債務控除」でまかなえなかった額は債務整理で返済する
払いきれない債務は、専門の弁護士に相談をして、債務整理によって支払いましょう。
債務整理は国の法律にのっとって、払いすぎた利息を引き直し計算をしたり、これから払うはずの利息をストップさせたりすることで、借金を減額して、債務者に有利な条件で借金を完済する方法です。
残しておきたい財産がある場合は、それらを売らずに借金返済をすることもできます。たとえば残された土地や家、車を売り払わずに、借金を返済していけます。
多すぎる利息を支払っていた場合は「過払い金」としてお金が戻ってくる場合もあります。
3つの債務整理があります。条件に見合う返済方法を考えましょう。
任意整理
- 債務者には定期的に返済可能な固定収入が必要
- 債権者の同意が必要
- 債務整理後、新しいクレジットカードが作れなくなる (クレジットカード使用自体は可能)
- 債務整理後、信用情報(ブラックリスト)に掲載される (5年)
個人再生
- 債務者には定期的に返済可能な固定収入が必要
- 債務整理後、新しいクレジットカードが作れなくなる (クレジットカード使用自体は可能)
- 債務整理後、借り入れが5-10年間できなくなる
- 債務整理後、信用情報(ブラックリスト)に掲載される (5-10年)
- 債務整理後、官報(国の信用機関)に掲載される
自己破産
- 債務者の借金はゼロになるが、現金以外の財産は没収される
- 債務整理後、新しいクレジットカードが作れなくなる
- 債務整理後、一定の職業に就けなくなる(弁護士・公認会計士・行政書士・税理士など)
- 債務整理後、信用情報(ブラックリスト)に掲載される (5-10年)
- 債務整理後、官報(国の信用機関)に載る
- 債務整理後、99万円以上の財産を失う
- 債務整理後、長期の旅行に行けなくなる
債務整理をすると、信用情報機関(いわゆるブラックリスト)に、債務整理をしたという情報が掲載されます。そのことを憂慮する方も多く、確かにデメリットもあります。
たとえば、5年のあいだ新しいクレジットカードが作れなくなることや、借り入れができなくることです。
債務整理の対象ではないクレジットカードの使用自体はできますし、キャッシング機能のないデビットカードであるなら普通にショッピングに用いることは可能です。務めている会社や就職に問題が生じることもありません。身内にも内緒で返済できますので、プライバシーも守られます。
「特定調停」という債務整理がありますが、専門家を通さず、個人で手続きする方法はとても面倒なため、おすすめしません。
債務整理を検討されたい方は、専門家に相談をしてみましょう!
※ メール返信後、電話での相談になります。わからないことはなんでも聞いてみてください。
【まとめ】相続放棄の注意点と対策
相続放棄をする際のデメリットと対応策
- 相続放棄をすると、負債は次の相続人に引き継がれる。
- 相続放棄をしても、負債の承認を外されるまでに時間がかかる。
- 一度相続放棄をすると、二度と撤回ができない。
- 財産処分をした場合は相続放棄の認可がおりない。
- 限定的に相続するのは非常に危険。
- 相続放棄ができないならば、債務控除をする。まかなえなかった額は法律の力に頼る。
相続を放棄したとしても、他界したご家族の借金は身内すべてに引き継がれていきます。相続放棄をするには被相続人の関係者全ての同意が必要です。
「相続放棄専門の弁護士」に相談をしてしまうと、相続放棄を依頼する形となってしまうため、その後借金問題で親族と揉めて大変なことになった、というケースが後を絶ちません。
借金問題は借金専門の弁護士に相談をするのが、ベストな解決法です!